「江藤新平」という、明治時代の傑物がいます。
おそらくこれを読んでいる人は、「江藤新平」という名前は知っているものの、どういう人物なのかについてはよく知らない、という向きが大半でしょう。
そんな彼ですが、実はいろいろあり、最期は晒し首に処されてしまいます。
どういった経緯で晒し首に処されたかについては省略します。
ごくシンプルにいえば「負けた」ということです。
いつどこで、何に負けたのか――といったあたりは歴史ロマンを感じつつ、各自お調べください。
本稿では江藤新平の九十五パーセントくらいを省略し、残り五パーセントの晒し首についてフォーカスします。
そういうわけなので、まずは実際の首をご覧ください。
Wikipediaの江藤新平のページの半分あたりまでスクロールすると、右側に「閲覧注意」という赤文字があります。その下のリンクをクリックすると、首のアップ写真が表示されます。
または、江藤新平で画像検索すれば最初のページに出てきます。晒し首界隈では定番なのかもしれません。
なお、朝なのであんまり見たくない――といった方のためにどんな写真なのかをまとめると、おおよそ以下です。
1.おそらく事後に整えられたのであろう無造作ヘア
2.異常なまでに眉が整っている
3.口が半開きになっており、芸能人並みに歯並びがいい
まるで誰それのようだ、といった表現は避けますが、とりあえず「イケメン俳優の寝起き顔」とイメージしてもらえればいいかと思います。
しかし、そんな貴重な写真である一方、疑義を抱かざるを得ない部分がいくつかあります。
例えば、首が置かれている部分を見てもらうと、何かが出ている様子がほとんどありません。
明治時代の人間は首を切っても断面から何も出ないタイプだった、ということはあり得ず、実際には何かが出ていたことは明らかですが、写真ではその雰囲気が全く感じられません。
そうなると現代で言うところのフォトショ疑惑が持ち上がってきます。そういえばやけに眉が整っているのも、半開きになった口の中から覗く美しい歯も、どことなく人工的な代物に思えてきます。
とはいえ、それは些細な問題です。
「フォトショ? あぁ、そのままだとグロいので修正しましたけど何か?」と言われればそれまでです。
私が特に疑問を抱いているのは、この写真の解説文として、こう書かれている点です。
解説: 晒し首になった江藤新平。処刑直後に販売されていたプロマイド写真。
「首だけになった時点でもはや江藤新平とはいえないのではないか、それとも脳が人格の全てを司っているとすれば頭部だけでも江藤新平なのか?」という素朴な疑問は横に置くとして、この解説の言わんとしているところは、「処刑直後に写真撮影して、しかもそれをプロマイド写真として販売しちゃった」ということです。しかもこれは誰かが写真屋に依頼したのではなく、写真屋の独断で行われたという話もあるそうです。
しかしいくらイケメンとはいえ人の死に顔であり、写真屋だって人の子です。
当時の写真は、撮られる側が三十秒くらいはじっとしていなければなりません。しかも当時、写真は大変貴重で珍しいものであり、野放しにされているフリーダムな人とかが一緒に映り込もうとしてくることが大いに考えられます。
よって写真撮影者は、撮影が終わるまでは晒し首を直視していなければなりません。これはちょっと酷な話であり、売れるかもわからない晒し首写真を、そんな労を払ってまで撮ろうという鋼メンタルの写真屋がいるものでしょうか。
さらに言えば、当時の民草がそもそも江藤新平を知っていたのか、という点も気にかかります。「名前はどっかで聞いたけど、晒し首になってるってことはしょうもない悪党なんだろう」くらいにしか見ていなかったのではないでしょうか。だとしたら、そんなものを撮影してプロマイドにすれば売れる、なんて考えたりするものでしょうか。
そうなると、おそらくこの撮影の裏には、写真屋内部でのちょっと明かせない話があったのではないかと考えるのが自然です。すなわち、
旦那 :おい新入り! 暇なら新しく晒されたホトケさん、腐っちまう前に撮ってきやがれぃ!
動かねえからヘタクソの練習にぴったりだ!
新入り:へ、へい、合点です!(えぇ、やだなぁ……また嫌がらせだぁ……もう辞めたい……)
となり、
新入り:おえっ……だ、旦那、撮ってまいりやした……。
旦那 :お、おう……(コイツ、辞めるかと思ったら本当に撮ってきやがったな……)
新入り:い、いかがでしょう?
旦那 :むう……ま、まあまあよく撮れてるじゃねえか(イケメンじゃねえか……売れるぞこれは!)
となった、ということです。
首を取られ、首を撮られた――しかしそれが誰かの首の皮一枚を繋げた――そんなドラマがあったなら、きっと彼も心穏やかに三途の川を渡ることができたのではないでしょうか。
以上です。
次のNHK大河ドラマの主人公は渋沢栄一ですが、時代が重なっているので、もしかしたら人間の弱さや陰鬱とした部分を象徴するシーンとして、イケメン晒し首シーンが使われるかもしれません。
イケメンといえばジャニーズであり、大河ドラマに最近よく見るジャニーズといえば風間です。
なにせ台の上に首だけなので演じるのは相当難しいはずですが、完璧に演じ切れば俳優としての評価は爆上がりし、いずれは大河の主演も夢ではありません。がんばってほしいです。